返回
朗读
暂停
+书签

视觉:
关灯
护眼
字体:
声音:
男声
女声
金风
玉露
学生
大叔
司仪
学者
素人
女主播
评书
语速:
1x
2x
3x
4x
5x

上一章 书架管理 下一页
十一 - 23
    「今のはね、御主人の御考ではないですよ。十六世紀のナッシ君の説ですから御安心なさい」

    「存じません」と妻君は遠くで簡単な返事をした。寒月君はくすくすと笑った。

    「私も存じませんで失礼しましたアハハハハ」と迷亭君は遠慮なく笑ってると、門口(かどぐち)をあらあらしくあけて、頼むとも、御免とも云わず、大きな足音がしたと思ったら、座敷の唐紙が乱暴にあいて、多々良三平(たたらさんぺい)君の顔がその間からあらわれた。

    三平君今日はいつに似ず、真白なシャツに卸立(おろした)てのフロックを着て、すでに幾分か相場(そうば)を狂わせてる上へ、右の手へ重そうに下げた四本の麦酒(ビール)を縄ぐるみ、鰹節(かつぶし)の傍(そば)へ置くと同時に挨拶もせず、どっかと腰を下ろして、かつ膝を崩したのは目覚(めざま)しい武者振(むしゃぶり)である。

    「先生胃病は近来いいですか。こうやって、うちにばかりいなさるから、いかんたい」

    「まだ悪いとも何ともいやしない」

    「いわんばってんが、顔色はよかなかごたる。先生顔色が黄(きい)ですばい。近頃は釣がいいです。品川から舟を一艘雇うて――私はこの前の日曜に行きました」

    「何か釣れたかい」

    「何も釣れません」

    「釣れなくっても面白いのかい」

    「浩然(こうぜん)の気を養うたい、あなた。どうですあなたがた。釣に行った事がありますか。面白いですよ釣は。大きな海の上を小舟で乗り廻わしてあるくのですからね」と誰彼の容赦なく話しかける。

    「僕は小さな海の上を大船で乗り廻してあるきたいんだ」と迷亭君が相手になる。

    「どうせ釣るなら、鯨(くじら)か人魚でも釣らなくっちゃ、詰らないです」と寒月君が答えた。

    「そんなものが釣れますか。文学者は常識がないですね。……」

    「僕は文学者じゃありません」

    「そうですか、何ですかあなたは。私のようなビジネス·マンになると常識が一番大切ですからね。先生私は近来よっぽど常識に富んで来ました。どうしてもあんな所にいると、傍(はた)が傍だから、おのずから、そうなってしまうです」

    「どうなってしまうのだ」

    「煙草(たばこ)でもですね、朝日や、敷島(しきしま)をふかしていては幅が利(き)かんです」と云いながら、吸口に金箔(きんぱく)のついた埃及(エジプト)煙草を出して、すぱすぱ吸い出した、

    「そんな贅沢(ぜいたく)をする金があるのかい」

    「金はなかばってんが、今にどうかなるたい。この煙草を吸ってると、大変信用が違います」

    「寒月君が珠を磨くよりも楽な信用でいい、手数(てすう)がかからない。軽便信用だね」と迷亭が寒月にいうと、寒月が何とも答えない間に、三平君は

    「あなたが寒月さんですか。博士にゃ、とうとうならんですか。あなたが博士にならんものだから、私が貰う事にしました」

    「博士をですか」

    「いいえ、金田家の令嬢をです。実は御気の毒と思うたですたい。しかし先方で是非貰うてくれ貰うてくれと云うから、とうとう貰う事に極(き)めました、先生。しかし寒月さんに義理がわるいと思って心配しています」

    「どうか御遠慮なく」と寒月君が云うと、主人は

    「貰いたければ貰ったら、いいだろう」と曖昧(あいまい)
上一章 书架管理 下一页

首页 >吾輩は猫である简介 >吾輩は猫である目录 > 十一 - 23